ヨーロッパでの車の運転

新居探しと並行して行ったのが、車探しだ。幸い車は前任者の先輩が譲ってくれたので、入手まで時間はあまりかからなかった。それよりも問題だったのが、私がほぼペーパードライバーだったことである。大学生のとき以来運転していなかった上に、左ハンドルの右側通行と日本と事情が異なる。緊張している私を心配した上司が、「車の練習がてらベルギーまで一緒に車ででかけてみる?」と誘ってくれた。

 

大変ありがたい心遣いだったのだが、ヨーロッパ初心者の私に衝撃が走る。

 

「え、ベルギー?遠くないですか?」

「いや、1時間もかからないくらいだよ。」

 

1時間という距離が遠いかどうかは人次第だと思うが、私は大学の時もど田舎にある実家の周りをちょろちょろしていただけなので、長時間運転した経験はほとんどない。ましては環境の違うヨーロッパだ。内心ビビりまくりだったけど、上司も助手席についていてくれるということでしぶしぶ了解した。これも訓練である。

 

今でこそヨーロッパの運転はだいぶ慣れて、今はむしろ日本でどう運転すればいいかよくわからないくらいだが、運転し始めの頃は色々と苦労したし、初めて経験することもたくさんあった。その代表格の1つがランドアバウトと呼ばれるロータリーだ。

 

以前に日本でも長野県かどこかが建設するといって話題になっていたが、ランドアバウトというのは要するに交差点の代わりで、信号を設置して四方から通行する代わりに交差点をロータリーにしてしまい、いったんロータリーに入ってしまえば好きなところで曲がって出ていいような仕組みである。言葉で説明するのが難しいが、おそらく多くの人が見たことがあるであろうパリの凱旋門の周りも超大型のランダバウトだ。ちなみに日本ではロータリー交差点とか円形交差点とか言われているらしい。

 

このランドアバウト、最初は戸惑うことも多いのだが、いったん慣れてしまうと楽で、ロータリーの中に入ってしまえば優先になるので他の車を気にせず曲がれたり、道を間違えてもUターンしやすいなどのメリットもある。ただ、大きいランドアバウトだとロータリーの中が車線に分かれていて、その中での車線変更が大変だったりもする。右折する人は一番外側の車線(右側通行の場合)、左折は一番内側に入って出るときに外に移るというルールがあるのだが、ぼーっとしているともう一周しなければいけないことになる。さらに、オランダをはじめとする左ハンドル右側通行の国では時計の反対周りだが、右ハンドル左側通行のイギリスになると時計回りになる。身体が感覚を覚えるまでは慣れないといけないことが多いのだ。

 

他に日本と大きく異なるのが、高速道路の事情だ。日本は高速道路は有料であるのが常だが、オランダの高速道路は基本無料だ。これはオランダ特有の話ではなく、他のヨーロッパ諸国も同じだ。フランスなど一部有料の高速がある国もあるが、全部有料というわけではない。なのでヨーロッパは長距離の車移動が非常に経済的であり、車で旅に出るのがすごく楽しい。また、速度制限も120-130kmあたりが一般的で、ドイツに至っては速度無制限のところも多く、日本よりも運転が快適だ。ずっと日本車に乗り続けた後でドイツ車に乗ってみると加速力の違いに驚くが、こういう環境で運転されるのが前提であればそこに力が入っているのも非常に理解できる。

 

あともう1つ難点をあげるとしたら、縦列駐車だ。縦列駐車なんて日本ではする機会もほとんどなく、教習所でも何番目のポールが見えたらハンドルを切るとかいう応用の効かない教え方しかされなかったけど、ヨーロッパは至る所で縦列駐車が必要となる。路駐するならほとんどは縦列駐車だ。縦列駐車のできない私はオランダ生活では路駐はせず、多少遠かったり高かったりしても必ずガレージタイプの駐車場にとめるようにしていた。出かける時には事前の駐車場チェックを欠かさない。こうすることで何とか3年間逃げ切ることが出来た。ただ、最近ロンドンで引越しをしたのだが、駐車場がアパートについておらず家の前の縦列駐車エリアにとめなければいけないことになってしまった。そんなわけで、ヨーロッパ生活5年目にして目下縦列駐車特訓中である。ヨーロッパで車を運転しようとしている人には、事前に縦列駐車を練習してくることをお勧めする。

 

というわけで上司とともにベルギーに赴き運転指導頂いたわけだが、初めてのヨーロッパ長距離運転ということで終始緊張しっぱなしだった。オランダは道も綺麗で平坦なのだが、ベルギーは高速でも道路状況が良いとは言えない場所もあり、運転もオランダより荒いという印象を持っている。ブリュッセルまで出かけたのだが、帰り道は見かねた上司が運転してくれることになった。助手席で見てても私の緊張が伝わってきたようだ。日本でもそうだが、高速はただ道に沿って走るだけなので運転しやすい。ただ街中に入ると道が雑多で人も多く、とたんに運転が難しくなる。渋滞で前がつまり、車線変更したい車が無理やり割り込んできたり、歩行者が車の間をすいすいと歩いて行ったり、そういうのはこちらでは日常茶飯事だ。オランダのアムステルダムに至ってはおびただしい数の自転車が車の行く手を阻む。ロンドンも街中は常に混み合っているし道も分かりにくいところがあるし、パリも雑多だし、やはりヨーロッパの大都市は車の運転には向かないというのが学んだところである。

 

とはいえ、オランダでは通勤に車が必要だったので車を所持していたし、イギリスでも住み始めて半年少し経ったところで車を購入した。既に述べたような難しさはあるものの、やはりあると大変便利なのである。ヨーロッパはドライブ中の景観がとても綺麗だし、公共交通機関だと行きにくいマイナーな場所にも楽にアクセスすることができる。なので私は車を買って良かったと思っているし、運転があまり上手くない私でも何とかやっているので、ヨーロッパに住んでて購入を迷っている人には是非おすすめしたい。

 

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