オランダに入国した時の話

オランダでの生活を開始するにあたって、まずしなければいけないことが住民登録だ。ここで私はいきなりヨーロッパの洗礼を受けることになる。

 

私のオランダでの住まいと職場までは60キロ少々の距離があった。それを車で片道50分くらいかけて通勤していたわけだが、最初から家が用意されているわけではないので、まずは職場の側のウィークリーアパートのようなホテルを拠点にして、家を探すことになる。ところが、オランダは入国後すみやかに仮の住民登録をしなければいけない。そんなわけで、到着した翌日に職場の最寄りの市役所で仮登録を行った。

 

ここからがややこしいポイントなのだが、オランダは地域が州で分かれていて(県といったほうがイメージに近いかもしれない)、職場と住まいは別の州にあった。無事家を見つけ入居も完了し、ようやくオランダでの住所を手に入れたので仮登録をしていた市役所まで本登録の申請をしにいったのだが、「あなたの住所は州が違うので、自分の家の最寄りの市役所で住民登録をしなければいけません。」という案内をうけた。なるほど、行政区が異なるということで理解できなくもない。とりあえずこの場では素直にアドバイスを聞き入れ、別の日に改めて家の近くの市役所にアポをいれ、住民登録をすることにした。(ちなみに近くの市役所は予約制で、訪問するのに1、2週間待たなければいけなかった)

 

満を辞して訪問した家の近くの市役所。オランダで2番目の都市だけあってサイズも大きい。番号札をとってしばらく待ち、ようやく自分の順番がやってくる。事情を説明して住民登録を進めようとしたのだが、返ってきた言葉は次の通り。

 

「仮登録を別の州で行なっているのでうちでは対応できません。仮登録をした市役所で登録を進めてください。」

 

これは最初に職場の近くの市役所で言われたことと違う。一体どちらが正しいのか。。普通新居を構える方で登録をすべきだという気はするが、オランダの事情は分からない。なすすべもなく元の市役所に戻って言われた旨を伝えたのだが、「いや、それは向こうが間違っているので住んでいるところの市役所で申請してください」という回答。2つの役所の言い分が異なってどうすればいいかよく分からない。

 

もしかすると英語での説明が伝わっていなかったのかもしれないと思い、今度はオランダ語の話せる現地採用の日本人人事の人に同伴してもらい、再び住まいの近くの市役所へ。しかし、その甲斐むなしく先方の言い分は変わらない。

 

困り果てた挙句、最終的にはオランダ人の人事担当に相談することに。「それはごめんなさいね、不運だったわね。」という言葉をかけてもらい、すぐさま彼女からオランダ語で市役所に電話をしてもらう。するとどうだろう、すんなり話がまとまり、結局職場の近くで住所の本登録をすると同時に住所変更手続きを行うことになった。最初から現地人に相談すれば良かったと後悔したことは言うまでもない。

 

このように、現地人にサポートしてもらうとすんなり問題が解決するのとは、聞く話によるとよくあるようだ。ヨーロッパには移民が多い。あまりに数が多く、不躾な人も多いため、市役所の手続きにおいても海外からの移住者はなめられたり、高圧的に出られたりすることがしばしばある。そういう意味で、日本人は大丈夫などという意識は持たない方が良い。いくら礼儀正しい民族だ、経済大国だと一部でもてはやされても、日本に興味がない人にとっては単なるアジア系移民に過ぎないのだ。

 

今回住民登録が滞ることで何に一番苦労したかというと、居住を証明できる書類がないと船便で送った引越し荷物を家に届けてもらうことが出来ないのだ。私がオランダに着任したのは8月末だったが、このいざこざで荷物を受け取れたのは11月あたりになってしまった。空輸便はホテルに送ってもらっていたので生活は出来たが、炊飯器がなくて美味しいご飯が食べられなかったのが個人的には何よりもつらかった。

 

相談に乗ってくれたオランダ人の人事の女性は今回の苦労にすごく共感してくれたようで、後日自分の国が迷惑をかけたお詫びとして一冊の本をプレゼントしてくれた。その本の名はというと、

 

"The UnDutchables"

 

オランダ人の性格を面白おかしく書き綴った本。自分たちのことを理解して許してほしい、というよりは単なるネタなのであろう。こうして何かにつけて自分たちを皮肉るオランダ人が私は好きだ。

 

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